研究者のモラル

松原です。
 後期の3週目に入りました。人間−生活環境系シンポジウムの梗概の締切までの数日,かなりあわただしい毎日でした。北村さんが奮闘してきましたが,無事完成にいたりました。先週の水曜日のゼミで中間段階の報告をしてくれたのですが,その後,データの分析の追加,考察の論点整理,英文タイトル, ABSTRACTなど,M1の院生にとっては,それほど容易ではない課題をいくつか乗り越えての完成でした。少人数で丁寧な指導,と決まり文句のように言っていますが,教員も初心に返って,もっと丁寧に助言しないといけないのではないか,と思うこともありました。「このデータは,きっとこういうことを意味しているんだよね。それを自分の文章で表現するとどうなるだろうね?」というようなやりとりを何度もして,柴田先生,渡邉さんの意見も交えながらの作業でした。「打てば響くかな」という言葉を20年ほど前に口にしたことがありますが,それ以来の実感でした。メンバーのモーティべーションが向上してくると,ゼミの雰囲気が大きく変わりますので,これからが楽しみです。
 ところで,山中先生のノーベル賞受賞は,非常に明るい話題ですね。21年のラスカー賞の受賞の時に,「科学は何枚も重なる真実のベールを一枚ずつはがしていく作業。運良くある一枚を引き当てた人だけが注目を浴びるのは、フェアではない」というコメントをされたそうですが,今回は右腕と言われる講師の方も共同受賞させてほしかったとおっしゃるなど,謙虚でモラルを感じる研究者ですね。受賞するとすべて自分が成果を上げたかのように主張する方もありますが,それは,根本的な誤解です。先人達が少しづつ研究を進めてきて,自分がたまたまiPS細胞を発見する順番にあたって,受賞の栄誉を得た,と言う主旨を述べられている山中先生は,本当に気持ちがよいです。僕たちの分野は問題解決的な研究が中心なので,イメージがわきにくいですが,先人がそれぞれ重要な仕事をして研究が発展してきたことを,若い人達に伝えることは,僕たちの重要な仕事です。自分の研究のヒントや先行研究をできるだけ丁寧にレビューして,自分の成果を歴史の中に位置づけることが大切ですね。
 山中先生については,2010年秋にブログで記事を書いたこともあるので,再掲しておきます。
 2010/10/21 iPS細胞とラグビー
 http://d.hatena.ne.jp/matsu-blog/20101021/1287674272
 iPS細胞の臨床応用に関してスキャンダラスな話題もありますので,分野・テーマこそ違いますが,すべての研究者がモラル・オリジナリティ・知的財産権などについて,規律を守ることを考える時だと思います。


「写真の解説」
 構内でいろいろな工事が行われていますが,それに先だって「発掘」を行って埋蔵文化財の調査がなされます。体育館南の発掘現場では,「水路」が発見されたようですが,しばらく公開して,現在は埋め戻されています。文学部の考古学の先生のお話では,京都では,どこを掘っても,茶碗のかけらくらいは出てくるそうです。