入浴中の死亡は事故か?

松原です。
 5月2日の朝日新聞に『入浴中に死亡「事故」と認定 大阪高裁 損保などに支払い命令』という小さな記事が掲載されました。溺れた事故なので死亡保険金・補償金を払うべきだとする受取人と,心疾患が原因だから支払えないとする損保会社などが争った結果,男性の高血圧の持病はあったが,重くはないので,お湯にのぼせて熱中症で意識をうしなった「事故死」の可能性を排除できない,として損保会社などの控訴を棄却した,と書かれています。これは,住まいの温熱環境と健康という話題で,いくつかの学会のディスカッションで話題になっていたことと関連しています。医学的には,医師が死亡診断書に記載した事項が死因となります。現象としては,浴槽内の溺死であっても,心疾患や脳血管疾患等の病気が「死因」である,と判断する医師は多いようです(相当な個人差があるようですが)。住宅内での温度差が原因となって浴室で死亡する事故はヒートショックと呼ばれており,専門家の推計では約17,000件/年と言われています。一方,厚生労働省による人口動態統計の家庭内での不慮の事故の「溺死」の数字は,その1/3以下です。人口動態統計の数字が,医師の判断する「死因」として記載されたものです。個人の持病に関する健康管理には,薬によること以外に日常生活における食事,住環境,服装,運動等々が関連することは,当たり前なのですが,少し角度を変えると,保険金の支払いと裁判という切り口になるわけです。本来,多くの原因が複合的に関与していることなので,学術的に,各原因の寄与を数値化しようとすると,相当難解なものになるだろうと思います。一方,経済的側面から見れば,保険に加入する側は,万が一の時に保険金が受け取れるものと思って加入するわけですし,保険会社は,できるだけ支払わなくてもすむような論理をくみたてるでしょうから,今後,このような訴訟は増加するだろうと思います。

「写真の解説」
 先日,宇治市へ出張したときに見つけた「茶壷型の郵便ポスト」です。市政50周年を記念して,お茶の産地をアピールしようとしたようですね。